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私たちの追跡 Vol.20
あっという間に10月も残り数日。実りの秋は一年の収穫の時期。
自分自身の成長の確認も年末前にしておきたい時期。
私たちの追跡も20回目。
少し振り返ってみたい・・・・
20世紀のはじめに近代建築を主導したル・コルビジェ。
彼はメートル法が建築空間を単純化させてしまうことに抗って、空間の関係を”秩序づける方法”を発明しようとした。
それは彼の言葉によれば、「空間の音階のようなもの」であり
無機質な寸法の世界に創造性を再度吹き込む鍵盤だった。
それは幾何学と人間の身体とを合体させようとする古くて新しい試みだった。
絵画から建築、さらに都市計画までと異なるスケールを横断して試みられたコルビジェさんの空間尺度はどのようなものだったのかは、私たちの追跡(Vol.2)で紹介・・・・・
そしてそのコルベジェさんや建築からインスピレーションを受けたと言われるヘアカット。
ヘアカットが生まれる前の時代を紐解きながら技術の裏側を追跡していく(超主観的追跡)を通じて
全ての時代に共通する考え方があることに気がついた。
一つは数学的に数字を使って考えること。
対象の形全体と部分を構成する「1」という基準をつくり、そこから2が生じ、3、4・・・
半分を1/2、,1/3 ・・・というように考え観察した。
古代ギリシャではその数字を割り切れる数(自然数)で表し
平方根(√)のような割り切れない数を、数字を代用する考え方として代数として捉え
幾何学という方法を考え出した。
数学も幾何学も技術や芸術との関係ではなく、元々は自然との関係から導かれたものだった。
そして自然の中に共通する宇宙の法則を秩序として捉えその秩序に「調和という美」を見出した。
自然には一つ一つの形や動きの規則性があり、それらが組み立てられ、積み重なっていくことで、成り立っていることを観察から発見した。
積み重ねて築き上げていく数学的、幾何学的な方法で再現することは構造(ストラクチャー)という言葉で置き換えることもできると思う。
ヘアカットの基本である「Born structure骨格の構造」は骨格の名所を暗記することではなく
ヘアカットをデザインする上での土台「骨格」を構造的に捉えていくことだということなのだと古典から
学び取ることができた。
そして構造を美しくつくる方法として「比例プロポーション」という「はかる」技法があり
プロポーションの基本法則が古代ギリシャのシュムメトリアやカノン、コルビジェさんのモデュロールだったり、
さまざま時代や文化によって表現の違いになっているのだと思う。
だけど、そういった基本法則を全て積み重ねていっても、
人間の目が球体であるという構造上その「美」が達成されないことに気がついていたのも、古代ギリシャ人だった。
その工夫がリファインメントだった。
古代ギリシャのパルテノン神殿もそのひとつで、
実物を目にすると、私たちの目は球面だから、目の周辺が歪んでしまうという。
歪むことで、巨大な神殿の端部が正確な比を示していないように見えるという現象が起きるようで・・・
上の写真のA図は神殿が本来見られるべき姿。目の歪みで出来てしまうBとCのような変形をやわらげるため、Aを達成するために古代の建築家は図Dのような仕方をとった。
当時の技術者たちは神殿がより適切にみえるようにその外観で本来直角、直線、平面といった単純な輪郭を取るべき部材をそれにきわめて近い微妙な角度、曲線、曲面に変更する補正操作をおこなった。
そういった視覚補正をリファインメントとし感覚的な調整を必要とする洗練技法にまで落とし込んでいった。
こういった技術をひとつひとつ丁寧に「積み上げていく」という手法は、時間と手間を必要とするために古代ギリシャでも金銭的な問題がともない、時代と共にだんだんと少なくなっていったと言われている。
持続可能性がうたわれる現在は常に経済的な問題が絡んでいる。
だからこそ私たちの追求したい技術は
経済との関係からだけではなく
数学や幾何学が自然との関係から生じたように
人と人の関係に情が生まれるように
人と自然の関係に生まれる矛盾のない表現。
そのステップとして古典から日本人に不得手な知の体系を学び、真に対応できるようになっていく・・
真・善・美という自然は妙によって調和される。
古の人たちが受け継いできた種からは
自然の創造が生まれる。
この道の先に
続く