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私たちの追跡 Vol.35

「死の灰」という写真家細江英公の作品がある・・

 

その写真を撮った瞬間を細江氏はこう語る・・・

 

 

”ポンペイ遺跡にて、ローマ神話の女神ディアナ(ギリシャ神話のアルテミス)の前で神父さんの携帯が鳴った。

2000年前のヴィスビオ噴火の犠牲者からの遺言を女神から聞かされているかのようだった”

 

 

また2006年に書かれた「球体写真二元論」には、こんなことが書かれている。

 

 

「長い人類の歴史の中で20世紀ほど罪深い世紀はないであろ。1945年8月6日広島に、8月9日長崎に人類史上

初めての最大破壊兵器であり大量殺袈兵器である原子爆弾が投下された。以来、アメリカの外にロシア、フランス、

イギリス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などが核兵器を保有し、20世紀の後半から人類は核時代に入った。それは、われわれが再び「死の灰」を浴びる可能性があるということだ。

 

ところで、私は2004年から5年にかけてポンペイの遺跡を撮影する機会をもった。そこで見た二千年前のヴィスビオ火山の噴火で死んだ人々の石膏の人型がまるで広島や長崎で亡くなった人たちのような格好をしているを知って驚いた。ポンペイの死者は現代人に重要なメッセージを残してくれていた・・

 

「自分たちの死は天災によるものだから避けられなかったが、核兵器は人間がつくったものだ。だから現代人の「強い決意があれば避けられるではないか」

という言葉が聞こえてきた。これからヴィスビオ火山の死の灰で亡くなった犠牲者からのメッセージを現代人に伝えるために私は何回もポンペイへ通うことになるだろう。大噴火があった西暦七九年から、西暦二〇〇六年の今年まで一九二七年の月日が過ぎているが、今ならまだ間に合う時間である・・」

 

 

細江氏は20世紀の虚無感を表現した「ルナ・ロッサ」で、20世紀の、忌まわしい核の放射能に汚染されたケロイドの肉体から、穢れなき純粋無垢な21世紀の小さな命におくる(希望という名の果実)に、20世紀からの夢を託した。

 

ルナ・ロッサ

 

 

 

先日、ウクライナ人のある青年が「なぜこんなにも、人類は歴史から学ばないんだ・・」という言葉を祈るように発していた。

 

歴史には、教科書や学校で教えられる受身の歴史と、自分ごととして捉え自ら関心を抱き、足元歴史から広い世界へとつながっていく、能動的な歴史が、あるように思える・・

 

そのウクライナ人の言葉を自分ごとに感じた・・・実際に争いを起こしている人達は対岸ではなく、自分自身とつながっている・・・

そう思うと本当に無力だということがわかる・・・

 

だからこそ、自分自身の足元の歴史や自分自身の職業の歴史や経緯を知ることから、少しでも世界を知り、小さき者として出来る世界とのつながりを感じていきたい・・

 

 

 

続く