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私たちの追跡 Vol.43
穀雨の頃。
四季の変化とともに自然と湧き上がる人の気持ちが心地いい季節。
カットしていたら「春が歩いている感じですね」っとお客様からの声をいただいた。
この時期七十二候では、「葭始生 あしはじめてしょうず」というようで、
天地に緑があふれる頃、葦の若芽が冷たそうな水面からすくっと顔を出してくる時期。
辺りの田畑にも、そんな便りが届いていた・・
哲学者の和辻哲郎(1889〜1960)は著書「風土」の中で
日本人の自然観は湿潤なモンスーン気候に由来すると述べました。
日本人の衣食住は日本の風土によって育まれ、日本人の感性はこの自然にあるとしています。
「風土」 はその国や地域の地形や気候、歴史の積み重ね によって自然に育まれてでき上がったものだから、
それぞれ の地域において他と異なるものであることにその意味があるという。
和辻哲郎の『風土』では世界を3つの気候帯に分けて文化の背景にある人々の自然観を説明しています。
それは日本を含むアジアを「モンスーン」
乾燥した中東を「砂漠」
地中海を中心にしたヨーロッパを「牧場」とするものです。
私たちの住む日本は、生命力溢れるモンスーン帯にあります。
自然の再生力は極めて強く、植物の固有種がヨーロッパと比較しても一桁違うと言われるほど多様性があります。
日本は列島の両側を北上する暖流に守られ、南北に長い列島には亜寒帯気候から亜熱帯気候まであります。
また激しい地殻変動により高低差のある複雑な地盤を形成してきました。そのため、夏は雨が多く、
冬は日本海側を中心に豪雨が降り、年間を通じて比較的穏やかな気候です。
このような自然条件のもと、人々は自然に寄り添うように生活し、
自然と共存共鳴するように命を育んできたところに生まれたのが
日本の「自然中心主義」です。
一方で、世界には、そんな私たちとは真逆の自然観を持つ人々もいます。
中東に代表されるような砂漠に住む人々にとって、自然は「渇き」です。
自然は死の脅威をもって人間に迫るばかりで、豊かな恵みというイメージは一切ありません。
水源にあるオアシスを訪れる人は必ず、水を求めてやってきます。彼らにとっては、水源を共有するものが
仲間であり、水源を守ることが命を守ることにつながります。
また、ヨーロッパの人々にとっては、自然は雑草に土地を占領されることもなく、
牧草として利用できるものでした。
和辻哲郎は「ヨーロッパには雑草がない」とさえ書いています。
その土地は虫は少なく、冬季でも細雨に潤されて緑の畑となり、
夏の乾燥機にはオリーブや葡萄がしげる果樹園となります。
これは常に雑草との闘いを続けてきた日本の農業とは対照的です。
穏やかな自然のもと、農業労働が容易であることは、自然は人間に従順であるという
考え方を形成していきました。
そういった考え方を背景にして、ヨーロッパでは
自然とは人間がコントロールできるものという自然観が生まれた。
そうした自然観が土台になり、人間を中心にした文明や文化作り上げた。
このように見ていくと、人々はそれぞれの土地で生き抜くために気候風土に適応し、
ものの考え方にも影響を受けてきたことが見えてくる・・・・・
それぞれの風土に備わる自然と人間の関係性によって
世界中に独自の文化が生まれ、育まれてきた。
和辻哲郎は、こうした違いを区別する視点として、「湿気」について取り上げている・・・
「湿気」は「東洋と西洋との土地の違いを最も顕著に感じさせる」としている。
ドイツの建築家ブルーノ・タウト(1880〜1938)も
パルテノン神殿と伊勢神宮の建築を「湿気や雨の多い風土の視点」をもって比較していたところが興味深い。
湿気や水、人間と自然との関係性によって影響する表現の独自性・・・・・
古代ギリシャから体系的に追跡してきた造形美の
普遍性と固有性が少しずつ自然に関係性をもって近寄ってきた・・・
続く
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